灰色思考

創作、脳内整理、感情の書き殴り、その他

洒落怖風の怪談(未完)

*結末はありません。起・承、まで書きました。

 


 

 大学四年生の夏休みに起きた話。

 高校時代からの友達3人と一緒にキャンプへ行くことになった。安いコンパクトカーをレンタルして、中部地方の山中にある小さなキャンプ場に向かった。早朝に街を出発したものの、道に迷ってしまったため、着いたのはお昼過ぎくらいだった。

 キャンプ場は綺麗な川の側にある空き地だった。川の両岸には青々とした森が広がっていて、水の流れはとても穏やかだった。キャンプ場には既に4つほどテントが立っていて、俺たちの他にも人がいるようだった。

 大学で山岳部に入っているBが、テントを立てたり、火を起こしたりしてくれた。

 俺とA、Cはキャンプの経験が浅かった。俺とAに至っては、山へ遊びに来ること自体が人生で3回目くらいだった。でもBは、キャンプに関する知識と経験が豊富で、俺ら初心者とは比べものにならなかった。

 キャンプの準備ができた後、俺たちは早速バーベキューをして楽しんだ。

 Bはキャンプだけでなく、バーベキューに関しても詳しく、彼が焼いてくれた肉や野菜はどれも絶品だった。特に「野菜は炭火で直焼きするよりも、アルミホイルで包み、焦がさずゆっくり火を通した方が、水分が乾燥しなくて旨い」という話は目から鱗だった。

 みんなで缶ビールを片手に持ち、高校時代の思い出話や、大学のゼミでの苦労話なんかに花を咲かせていると、時が経つのを忘れた。

 食事で腹をいっぱいにした後は、Cの提案で川釣りをすることになった。

 釣りの道具はCが父親から借りてきたらしく、一応、4つの釣り竿と餌、クーラーボックスなどが揃っていた。とは言え、全員が川釣り初心者だったので、何をどうすれば良いのかさっぱりわからなかった。幸いにもネットが繋がったので、スマホで川釣りのいろはを調べ、見よう見まねで釣りを始めた。

 俺とAはからっきしダメで、全くヒットしないことに飽き飽きし、しまいには、どれだけ遠くまでルアーを投げられるか、などという馬鹿な遊びを始めていた。

 一方で、BとCはなかなか良いセンスを発揮して、一時間で3匹ずつの川魚を釣り上げていた。川魚はどれも中々の大きさで、特にBが最後に釣り上げた一匹は、種類はわからなかったが全長30cmくらいもある大物だった。

 ところが、それをマジマジと見ようとしたCが手を滑らせたせいで、大物は川の中へと逃げていってしまった。釣竿を持ったまま憤慨するBと、文字通り追いかけ回されるCを見て、俺とAは爆笑していた。 バーベキューと釣りだけであっという間に時間が経ち、いつのまにかもう夕方になっていた。夕日が木々の間から差し込んで、川の水面に反射してキラキラ光っていた。

 とても綺麗な光景だったから、俺は思わずカメラを取り出して、写真を撮った。

 一眼カメラを持ってこなかったAが自分自身に悪態をついていたので、俺は後で写真を送ってやると言った。

 テントの方に目を向けると、夕食やら寝具やらの準備をしているCとBが見えた。

 Bが車においてきた夜間用のキャンプ用品を取ってこいと命令すると、Cはいそいそと駐車場の方へ走っていった。さっきの魚を逃した件で、BとCの間には変な上下関係みたいなものが生まれているようだった。

 俺とAはまた笑った。

 美しい景色と代わり映えしない友人達に囲まれて、俺はキャンプに来て正解だったと心の底から思った。

 俺とAが川岸でノスタルジーに浸っていると、Bが山の夜はあっという間に真っ暗になる、早めに寝床の準備をしたいから手伝え、と呼びかけてきた。

 重い腰を上げて俺らがテントのほうに向かうと、もうあらかた寝床の用意は整っていた。さすがはBだと感心しつつも、特に何をすればいいかわからなかった俺らは、手伝っているフリをしながらウロウロしていた。

ベタなプランだが、夜は焚火をしつつ、カレーを作って食べる予定で、その後は、酒を飲みつつ星を眺めたり、テントに入ってAが持ってきたボードゲームで遊んだりしようと考えていた。

 気づけばあたりは薄暗くなっていて、ほかのテントにはランタンの光がいくつか灯っていた。


 しばらくして、車のほうに夜間用のキャンプ用品を取りに行っていたCが戻ってきたようだった。Bはテントの外に出て行くと、遅いぞとCに声をかけた。

 俺とAは、またBとCのやり合いが聞けると思ってニヤニヤしつつ顔を見合わせた。

 ところが、BがCを責める声も、Cがヘコヘコ謝っている声も、特に聞こえてこなかった。

 それどころか、何やらBとCが喋っている声が聞こえるだけで、二人がいつまで経ってもテントの中に入ってこない。不思議に思った俺が外に声をかけようとした時、突然Bがテントの入り口から顔を覗かせた。

 Bはなんだか怪訝な顔をしていた。

 Aが何かあったのかと聞くと、Bは、二人ともちょっと外へ来てくれと言った。

 言われるがまま俺とAが外に出ると、Cがかなり困ったような顔をしてパイプ椅子に座っていた。

 何があったのかと俺が聞くと、Cはひとこと、マジで最悪だと悪態をついてから話し始めた。

 Cが言うには、どうやら俺たちの車が酷い車上荒らしにあっていたらしいのだ。

 車は、窓ガラスが全て割られ、車内が土や落ち葉でめちゃくちゃに汚されているという、かなり酷い状態だったそうだ。そして、最も驚いたことに、タイヤが全てパンクさせられていたのだと言う。

 CがBに頼まれて車へ向かったのは夕方、おそらく午後5時前くらいだった。季節は夏だから、山の中であるとは言っても、日が落ちるのは意外と遅かったのだ。なので、まだ日が高い日中、俺達が気づかない間に犯行が行われた可能性が高いとCは言った。

 幸いにも、何かが盗まれたりひどく物色された形跡は無かったらしい。俺は、貴重品を含む多くの物品を既にテントの方へ持ってきておいてよかったと思った。

 俺と一緒に話を聞いていたAは、少し困惑しつつもいつも通り楽観的な様子だった。

 Aは、まあ災難だったけど、なにも盗られていなかったんなら良かったじゃないかと言って、落ち込むCの肩を叩いた。

 すると、Cが俯いたまま言った。

「いや、それだけなら良いんだよ」

「どういうことだ?」

 俺はCに聞いた。

 Cは、普通に接しているだけではヘラヘラしている奴のように見えるが、本当は根っからの優男くんだった。Bの魚を逃してしまったことも、俺らには笑い話にしか思えないが、C自身は、少し本気で申し訳ないことだと考えてしまっているのだろう。

 だから俺は、こういう時、優しいCが俺らを気遣って変な隠し事をしないよう、しっかり追求しないといけないと思った。

「いいんだぞ。何でも話してくれれば」

 俺はしゃがみ込んで、パイプ椅子に座っているCと目線を合わせてやった。

 明らかにおかしかった。車上荒らしをされただけで、Cがここまで不安そうな顔をするだろうか。

 Cは俯いたまま、いや、とか、あー、とか言うだけで中々話してくれなかった。

 痺れを切らしたのか、先にCから話を聞いていたBが口を開いた。

「あんまり驚かないで聞いてくれよ」

 何だかすごい神妙な口調だったので、俺もAも思わず身構えてしまった。

 何もキャンプに関することだけでない、元々Bはしっかり者で、いつも頼りになるやつだ。それでいて、真面目で、説得力のある話ができる男だった。

 だから、たかが車上荒らしの話のはずなのに、Bが話をするとなると、何だかものすごく重たい話のように思えてしまった。

 Bは言葉を区切りつつ話した。

 俺と同じでいつもヘラヘラしているAも、この時ばかりは真面目に話を聞いているみたいだった。

「あのな」

「荒らされまくった車内の至る所にな……」

 嫌な予感がした。

 俺は、生唾を飲みこんだ。