灰色思考

脳内整理、創作、感情の書き殴り、その他

深淵の彼方

*オチでコズミック・ホラーの雰囲気を漂わせるストーリーが書きたくて考えた、短いコンセプト作品です。

 


 

 遠い、遠い未来のこと。

 人類は、戦争や気候変動・エネルギー危機といった幾多の困難を乗り越えながら、数百年間もの間培ってきたその叡智の結晶に更なる磨きをかけていた。終わりを知らない科学の発達は、ヒトという生物の限界を破壊し、彼らを太陽系の他の星々へと送り出すまでに至った。
 人類は今や、宇宙文明の発展度合いを示す『カルダシェフ・スケール』で言うところの"タイプⅠ"文明を抜け出そうとしている。地球という惑星一つに囚われることなく、壮大な宇宙という場所に向けて文明の枝葉を伸ばそうとしているのだ。

 ところが、そんな未来の彼らにも、今の我々が持つものと似たような、宇宙規模の世界観に対する漠然とした一つの疑問があった。

「なぜ、我々のような文明を持った異星人は、未だに発見されないのだろうか?」

 この数百年間で、人類は月と火星を植民地化し、そこに基地を作ることに成功するなど、宇宙開発に関して飛躍的な進歩を遂げた。そして、そういった宇宙開発のテクノロジーの中には、この「宇宙人はいるのか?」というシンプルな疑問に答えを見出すために開発されたものも多く存在した。しかし、人類が初めて宇宙に進出してから数百年が経ったこの時代においても、未だその問いに対する答えは出ていなかった。

 人類はある時、宇宙に向かって定期的なシグナル・メッセージを発信するプロジェクトを実行し始めた。銀河のどこかにいる知的生命体に向けて、自分たちの存在を知らせるメッセージを送り続けたのだ。そのメッセージは、人間や地球に関する知識を簡単な言語のサンプルと一緒にまとめたもので、頭の良い宇宙人が理解し、返信をしてくれることへの期待が込められたものだった。

 プロジェクトを初めて最初の百数十年間、広大な暗い宇宙からの返答は無かった。地球、月、そして火星に設置された多国籍の研究施設から、人類のメッセージが込められたシグナルが定期的に発信され、電子の波となって空へ消えていくだけだった。
 だがある日、人類は自然発生的ではない不思議な電波を宇宙から受信することになる。その電波は月から発信されたシグナルに呼応するような形で、複雑なパターンを示しており、しし座のレグルスが輝く方向からやってきていた。

「人類の経験上初となる、地球外生命体の存在を示唆する電波が宇宙から届いた」

 このことは世界中でニュースになった。各国の機関はこの電波を解読するため、熱心に研究へ取り組み始めた。受信した電波は非常に複雑であり、分析に時間と費用を要するものだった。しかし、その発生源が50〜100光年という比較的近い場所にあることが予想されたため、近い将来における異星人との接触がより現実的なものとなり、研究者たちの意欲は燃え上がった。宇宙文明の第一歩となるかもしれない「異星人との交流」というイベントに、誰もが期待で胸を膨らませていた。

 そして、遂にその電波が解読される時が来た。

 宇宙から届いた謎の電波は、何らかの未知なる存在によって、地球の人類に理解できるような形で発信されたメッセージだった。また、その電波は、我々が送ったシグナルに呼応する形で定期的に送信されており、人類だけに向けて発信されていたものだと断定することができた。
 宇宙から届いたメッセージの詳細な内容は、各国の報道陣を招いた大規模な記者会見で発表されることとなった。一流の研究者たちが一堂に会見の場に並び、全世界がその様子に注目した。

 誰もが期待と羨望の眼差しでその様子を見守る中、なぜか、研究者たちだけが、焦燥したような、あるいは不安がるような表情を見せていた。
 宇宙のはるか遠くから、未知の存在が地球へ届けたメッセージの内容は、以下のようなものだった。

 

「青い星の皆さん、あなた達のメッセージを受け取りました」

「私たちは故郷を滅ぼされ、宇宙を長く彷徨っている者たちです」

「どうか、今すぐ静かにしてください」

「❝彼ら❞に聞こえてしまいます」